【書評】細川貂々の新刊『生きづらいでしたか?』|当事者研究入門

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『ツレがうつになりまして。』の細川貂々さんの新刊『生きづらいでしたか?』が2019年2月に発売。

当事者研究というのは、正直それほどキャッチーなテーマではないものの、読後(読んでるときも?)に、ジワジワくるものがありました。

『生きづらいでしたか?』を読んで感じたことを、ネタバレに注意しながら記します。

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『生きづらいでしたか?』に出てくる「当事者研究」って何?

細川貂々さんの『生きづらいでしたか?』を読むまで、当事者研究という言葉を聞いたことがありませんでした。

浄土真宗本願寺派の如来寺住職で相愛大学人文学部の教授である釈徹宗先生。

釈徹宗先生が主催する寺小屋に通っていた細川貂々さん。

そこで偶然、当事者研究というワードを目にします。

ひょんなことから、細川貂々さんは当事者研究の集まりに出向くことに。

彼女を当事者研究に誘った多谷ピノさんによると、

当事者とは

困りごとを抱えた人や本人のこと

です。

そして研究

集まった仲間と一緒に苦労やメカニズムの意味を考える

ということ。

細川貂々さんが出向いた当事者研究の場では「どんな名前で呼ばれたいか?」「今日の気分」「最近の悩み」などを話します。

細川貂々さんは、外へ出ると緊張することが多く、リラックスできない性格。しかし当事者研究の場に出向いた際は、安心できたといいます。

外出してレジで何かを買うだけで緊張してしまう僕は、当事者研究という言葉に強い興味を持ちました。

日本の当事者研究は『べてるの家』が先駆け

北海道・浦河町にある精神障害を経験した当事者を中心とするコミュニティです。1984年に設立されました。 社会福祉法人、会社、NPOがあり、主に日高昆布製品の加工・販売や出版などの情報発信、「当事者研究」などの活動を行なっています。

出典:べてるの家

べてるの家は、北海道の浦河町にある共同体。

ソーシャルワーカーの、向谷地生良さんやスタッフ、有志の人達によって始まりました。

2001年からは「自分の苦労を取り戻す」というテーマで、当事者研究を行っています。

『べてるの家』の当事者研究の自由さ

べてるの当事者研究は、向谷地さんが司会を務めます。

椅子で円を描くようにみんなが座り、研究を発表する人はその中心でマイクを握ります。

聴衆は、研究発表者へ思ったことを遠慮せずに伝えます。

発表の途中で出ていく人もいれば、また戻ってくる人も。

『べてるの家』は、自分の気持ちに正直でいれる場所なのです。

『生きづらいですか?』で僕が最も考えさせられた点

べてるの研究発表中、細川貂々さんの近くにいた人が「あの人(研究発表者)、何言ってるかわかんない」「(人が)邪魔で見えない」「つまんない」「面白くない」など口にします。

あげくのはてには、細川貂々さんに対して「売れない漫画家が何しに来たんだ?(売れっこ漫画家だと思うのですが…)」と言い放つ者も。

この辺りの描写が、大変興味深かったです。

なぜなら、べてるの人達は世間的な「正しい」という価値観にとらわれていないから。

だからといって、何でも率直に言う人が僕は苦手です(笑)。

最近、僕が距離を置いた人と重なった『べてるの家』の人達

最近、こんなことがありました。

月に一回ほど、僕を含めた三人で飲みに行く集まりがありました。

ここへ四十代半ばの男性(Aさん)がやってくることになったのです。

三人ともAさんと顔見知りですが、そこまで親しくありません。Aさんが我々三人と飲みたいといっているので、「それなら、どうぞ!」という流れになりました。

我々三人がいつも行くお店は、リーズナブルな中華。二時間ほど食べのみしても3000円いかないほど、お財布に優しいお店。我々三人は、ここの中華が愛しています。

実はAさんも、この中華に来たことがありました。

お店の前でAさんはこう言い放ちました。

今日は、この不味い中華屋か~。がっかりだな…

彼は冗談でなく、本気で発言。

ひきつった笑みを浮かべる我々三人。

お酒と食事は美味しいものの、率直すぎるAさんの発言に空気がいつもよりも張り詰めました。

帰宅後、僕はぐったり。それ以外Aさんとは距離を置こうと決めました

『べてるの家』で率直な発言をしていた人達と、Aさんはよく似ています。

正直に発言することは大切ですが、思ったことを咀嚼せずに口にすれば軋轢が起こるのは確かでしょう。

僕もAさんも生きづらさを抱えている

Aさんは思ったことをすぐ口にする人なのですが、その性格に苦しんでいる節がありました。

最初からズケズケとした物言いをするのではなく、気を許した途端、とんでもない毒舌に変化(HSPの僕からすれば、ものすごい毒舌に感じます)。

どうやら忌憚のない意見を言い始めた途端、Aさんから人が一斉に離れるため、いつも孤独感を抱えているようでした。

Aさんの身長は190cmを超えており、声も大きめ。普通にしていてもかなりの威圧感があります。

中華屋で僕はAさんに対して、「今の発言は不愉快でした」と何度も言いたかったのですが、あまりストレートに伝えられませんでした。

根底には「怒らせたくない」「嫌われたくない」「丸くおさめたい」という気持ちがあったからです。

すぐ顔色が変わる僕と話していたAさんは、どんな気持ちだったでしょう?

「また余計なことを言ってしまったか…」と気にしていた可能性があります。

つまり僕もAさんも生きづらさを抱えているから、上手にコミュニケーションをとれていないのです。

一ノ瀬かおるさん(大阪の当事者研究NPO『そーね』のスタッフ)の優等生病に共感

大阪の当事者研究「そーね」のスタッフである一ノ瀬かおるさんは、細川貂々さんと同じく漫画家さん。

『生きづらいでしたか』の取材を受けた一ノ瀬かおるさんは、ご自身を

私、優等生病なんです

と紹介。

ここに僕はすごく共感を覚えました。

Aさんに対して、はっきりとした主張できない僕も、どこか優等生病なのでしょう。

周囲が求めていなくても、勝手に求められていると考え、そのように振る舞ってしまい、その結果、心がしんどくなる。そういった優等生病的な行動は、僕の人生で頻繁にありましたし、今もあります。

『そーね』のスタッフである発達障害のくんちゃん

NPO「そーね」のスタッフである、くんちゃんは発達障害。

彼はテンポや視点が他者と異なるため、人を困惑させることがあります。

くんちゃんのようなタイプは、世間で「空気が読めない変わった奴」というラベルを貼られて、のけものにされることも。

しかし「そーね」のマスターである横山弘和さん曰く、

くんちゃんは、みんなの中にある「◯◯するべき」を壊してくれるから視野が広がる。

と前向きに捉えています。

日本人は普通が大好き。そして平均から外れることに恐怖を覚える人が少なくありません。

くんちゃんが生きづらさを感じやすいのが、今の日本なのではないでしょうか?

『生きづらいでしたか?』を読み、普通も平均も幻と気づく

僕たちは幼少期より親から教育を受けています。これは洗脳と言い換えてもいいのですが、

・◯◯であらねばならぬ

・◯◯すべき

など無数の『ねばべき』を、無意識下で植え付けられています。

そして、そこから外れている人に向かって石を投げたり、あるいは自身がズレた側になった場合、自己嫌悪に陥ることも。

細川貂々さんの場合、お母さんから

うまくいっているところを人に見せちゃダメ。ねたまれるから…

ネガティブな自分を演出するべきという教育を受けました。

お母さんの言葉が細川貂々さんの生きづらさにつながったのは間違いありません。

普通も平均も幻です。実態なんてありません。

人生は短いのに、存在しないものプレッシャーに苦しむなんて馬鹿らしいと『生きづらいでしたか?』を読んで、僕は感じました。

『生きづらいでしたか?』のイベントで生貂々さんを目撃

僕はなんとなく面白そうだなと思って細川貂々さんのイベントに足を運び、そこで『生きづらいでしたか?』の存在を知りました。

漫画を読んで、当事者研究という言葉をようやく認識したのです。

生で見た細川貂々さんは、最初舞台上でキョロキョロされていましたが、だんだんとリラックスしていき、ゆっくりとした調子でお話されていました。

イベントの後半に、来場者からいくつかの質問が登壇者に投げかけられました。

質問内容はあかせませんが、中にはかなり重たいものも。

しかし、そのどれも細川貂々さんは真正面から受け止めておられました。

『生きづらいでしたか?』の中で、細川貂々さんは「人の目を長い時間、見て話すのが苦手…」と書かれています。

しかしイベントの際は、質問者から一度も目を離すことがありませんでした。

『生きづらいでしたか?』は、ご自身の生きづらさから逃げずに、向き合ってきた細川貂々さんだからこそ、描けた本なのだと思います。

人間全員生きづらい

『生きづらいでしたか?』は、これまで僕が漠然と考えてきたり、あるいは「いつかしっかりと向き合わなきゃ」と感じていたことへのヒントが随分ありました。

多分、人間全員が生まれた瞬間から、度合いの違いはあれど、何らかの生きづらさを抱えています

「全員生きづらいんだ」と思えれば、少し心が楽になりますね。

きっと『生きづらいでしたか?』は、何度も読み返す作品になるでしょう。

また新たな気づきがあれば、まとめて記します。

最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!

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