『嫌われる勇気』がベストセラーになったことで、かなり有名になったアドラー。
「心の傷」という概念を、トラウマという言葉で、この世に広めたフロイト。
しかし彼ら以外にも、人々に大きな影響を与えた精神科医と心理学者がいます。
ユングはもちろん、それ以外の人達にもフォーカス。
精神や心の世界に興味があるあなたが、さらに深い世界へ踏み込む足がかりになれると幸いです。
世界的に有名な精神科医・心理学者11選
世界的に有名な精神科医・心理学者について解説!
ほとんどの人が知っている人もいれば、少しマニアックなラインナップもあります。
【関連記事:日本で有名な精神科医10選▼】
世界的に有名な精神科医・心理学者1.ジークモント・フロイト
精神分析の創始者で『無意識』『自我』『超自我』の発見はかなり有名。
『自由連想法』を押し出したフロイト独自の治療法は実験的でした。神経症の治療に注力。
無意識のプロセスと性的衝動に重きを置いた精神分析学を確立。
精神の世界だけでなく、芸術や文学にも多大な影響を与えました。
ユダヤ人のフロイトはた、ナチスの迫害から逃れるため、1938年にロンドンへ亡命。
代表的な著書は『精神分析入門』『夢判断』など。
潜在意識が顕在意識に及ぼす力に着目したため、夢の世界に大きく傾倒しました。
今の価値観で振り返ると過激なフロイト
強烈なドラッグであるコカインを万能薬のように認識していた時期のあるフロイト。
自ら使用するだけでなく、自分が受け持っていた患者にも処方していました。
気分が高揚したフロイトは、婚約者の女性にコカインの素晴らしさをプレゼンする手紙を送ったそうです。
聡明なイメージの強いフロイトですが、実はかなり人間臭い面を持つ男なのでした。
世界的に有名な精神科医・心理学者2.カール・ユング
カール・グスタフ・ユングは、精神の世界へフロイトと違わぬほどの影響を与えた精神科医であり、心理学者です。
彼はスイスのオイゲン・ブロイラーの弟子として出発。ブロイラーとフロイトが親しくしていた関係で、
君はフロイトの元で学びなさい!
と言われるユング。
フロイトからたくさんのことを吸収しながら、精神分析家として頭角を現すユングでしたが、ふたりの関係はだんだんと悪化。
1914年にはフロイトと別の道を歩むことになりました。
無意識をさらに掘り下げたユング
フロイトの性欲理論と合理主義に批判的だったユング。
分析心理学を創始した彼は、無意識を個人的無意識と集合的無意識に分類。
集合的無意識に存在する元型から、「マンダラといった人類が持つ普遍的イメージや観念が紡ぎ出される」と主張しました。
また現在では日常的に使われる言葉である内向的、外交的という心理的類型論やコンプレックスの概念の提唱は後世に影響を与えました。
「フロイトは外向型、アドラーは内向型」というのがユングの分析。
UFO、円盤、宇宙人、シンクロニシティなどにも言及しており、精神の世界からオカルティズムへ傾向を見せたため
ユングの言うことは、うさんくさいし、よくわからん…
という人が多いのも確か。
しかしユングの残した功績は、否定しようのないもの。
『心的タイプ論』『無意識の心理学』といった著書が有名です。
あの鏡リュウジもユングの影響を受けている
有名占い師の鏡リュウジさん。
彼はユングからかなりの影響を受けています。
ユングが生み出した『元型(アーキタイプ)』といわれる概念は、タロットカードの中に取り入れられているそうです。
タロットカードの発明の源泉には、人間の普遍的な集合的無意識があるのではないか
というのが、鏡リュウジさんのご意見。
「欧米人は悩むとカウンセラーのもとを訪れますが、日本人は占い師に相談を持ちかける」という格言があります。
ユングは『対話の心理学』といわれるアプローチをしているため、占いとの親和性が高いのかもしれないですね。
世界的に有名な精神科医・心理学者3.アルフレッド・アドラー
200万部近い大ヒットを記録した岸見一郎氏と古賀史健氏の『嫌われる勇気』。
アドラーの考えをわかりやすく説明するのに成功。日本に一大アドラー旋風が吹き荒れました。
オーストリアの精神分析学者であるアドラーは、
人間が行動する根源は、権力への意思か優越欲求である
と定義しました。
それらが満たされないことで、劣等感が生まれるというのがアドラーの考え。
「全ての悩みは対人関係の悩みである」というアドラーの言葉は、広く普及しています。
アドラーとホリエモンの共通項は『課題の分離』
アドラー哲学が自分の考えと、とても似ていることに驚いたというホリエモンこと堀江貴文氏。
『嫌われる勇気』を読んだら、僕の考えていたことは、僕が生まれるずっと前にアドラーが体系化していたことがわかった。本当に驚きですよ。
『嫌われる勇気』の著者である岸見一郎さん、古賀史健さんとの対談で上記のように語っています。
歯に衣着せぬ発言の多い堀江さんだからこそ、真実味があります。
「課題の分離」とは、他者の課題には立ち入らず、自分の課題にも他人を介入しないということ。
例えばあなたの知人が
あんたのこと嫌いなんだよね
と思っていたとしても、気にする必要はナッシング!!
あなたのことを好きになるのか嫌いになるのかは、相手の課題。
この考えが理解できると、対人関係のストレスを減らすことができます。
世界的に有名な精神科医・心理学者4.カール・ロジャース
カウンセリングという言葉が、普通に使われるようになった現代。
実はカウンセリングの生みの親といっても過言でないのが、カール・ロジャースなのです。
『来談者中心療法』と呼ばれるカウンセリングテクニックは、日本でもしっかりと根づいています。
プレゼンスという「人がそこに存在していること」に着目したやり方は、これからもどんどん広がっていくことでしょう。
心の悩みを抱いて訪れた人を
「患者(patient)」とは捉えず、「来談者(client)」という認識の仕方を始めた画期的人物です。
1982年に米の心理学会が実施したアンケート調査「もっとも影響力のある10人の心理療法家」の中で、カール・ロジャースは堂々の1位に輝きました。
世界的に有名な精神科医・心理学者5.アルバート・エリス
ロジャースが1位ですぐその下は、アルバート・エリス。フロイトが3位ですから、いかに彼の影響力が強いのかわかります。
認知行動療法の礎を築いたひとり。アルバート・エリスの唱えたABCDE理論は、たくさんの精神科医や心理学者が参考にしました。
Aは「activation event」で内的な出来事、外的な出来事 Bは「belief」物事の解釈を行う際にフィルターのごとく働く信念や認知 Cは「consequence」解釈に基づく感情的な結末や結果 Dは「dispute」で、心理的な問題や不適応状態を合理性を欠いた信念に対する論理に基づいた反論や効果的な反駁(はんばく) Eは「effective new belief」で、悪化する感情や精神的な落ち込みが起こる前に予防可能である人生哲学や新しい信念。 |
1957年以降、アルバート・エリスの書いた論文は、頻繁に引用されました。
そのことからも、新たな時代に与えた功績が見てとれます。
ちなみにアルバート・エリスが提唱した、対人恐怖症を克服するための認知行動療法プログラムをナンパに転用して、大成功した零時レイなる人がいます。
彼にとってアルバート・エリスは心の師匠のようなものかもしれません。
【抱腹絶倒なナンパ本 著者:零時レイ】
世界的に有名な精神科医・心理学者6.アーロン・ベック
不安を長引かせ人間を鬱状態にする危険性のある『認知の歪み』。
アーロン・ベックの弟子であるデビッド・D・バーンズが、10種類の認知の歪みを定義しました。
その礎となったのは、アーロン・ベックの研究です。
憂鬱になる人は、悲観的・否定的な考え方をする癖がある
と気づいたアーロン・ベックは、認知の歪みを修正するための新しい治療的アプローチを考案。
日本でも精神疾患の治療に取り入れられている認知行動療法。こちらの療法へアーロン・ベックが果たした役割は、はかりしれません。
世界的に有名な精神科医・心理学者7.ハインツ・コフート
フェリックス・コフートという音楽家のもとで生まれたハインツは、フロイトと同じくナチスの迫害を逃れるべくイギリスへ亡命。
その後、アメリカに渡りシカゴ大学で助教授を務めるなど精力的に活動を行います。
自己心理学を研究し、この系譜は日本の和田秀樹さんなどに受け継がれています。
患者の欲求を抑圧している両親への怒り、憤怒などにフォーカス。
今ではよく目にするようになった『自己愛パーソナリティ障害(自己愛性人格障害)』を最初に研究した精神科医、精神分析学者として世界に知られています。
【自己愛性人格障害の疑いがあるパワハラ上司に関する記事はコチラ】
【自己愛の傷つき、自己愛的憤怒、病的な怒りに関する記事はコチラ】
世界的に有名な精神科医・心理学者8.ミルトン・エリクソン
アメリカ臨床催眠学会を発足させ、初代会長を務めました。
治療に抵抗するクライアントがいるのではなく、柔軟性にかけるセラピストがいるだけ
というクライアントには責任がないというのが基本理念。
「クライアントが良くなるなら何でもあり」といった柔軟でユニークな療法を用いました。
多くに精神療法、心理療法は体系化されて受け継がれていくもの。
しかしミルトン・エリクソンの考えは
クライアントの数だけ治療法がある
というもの。そのため、卓抜した彼の技術は体系化されませんでした。
独学で勉強した催眠を取り入れるなど、必要あらば何でも行動に移します。
その原動力となったのは、「患者を少しでも良くしたい!」という思いだったのでしょう。
あまりにクライアントを鮮やかな手法で治癒させることから『魔術師』『アンコモン・セラピー』と称されました。
人が心を病む原因となるダブル・バインド(メッセージとメタメッセージの矛盾)の概念も、ミルトン・エリクソンと深く関わっています。
ダブルバインドを世に広めたのは、グレゴリー・ベイトソンですが、エリクソンの関与なしにはそこまで到達しなかったのは間違いないでしょう。
世界的に有名な精神科医・心理学者9.ハンス・アスペルガー
「アスペルガー症候群」という診断名は、ハンス・アスペルガーの名前が由来です。
オーストリアで小児科医を務めていたハンス・アスペルガーは、
・一方的に話す ・共感能力の極端に低い ・友人を作る能力が極端に低い ・興味のあることに没頭し過集中する |
上記の人達を自閉症の一種、アスペルガー症候群と定義。
ハンス・アスペルガーが1939年に自身のクリニックで出会った、フリッツ.Vと呼ばれる少年は、友達の輪に加わらず対人コミュニケーションでは、独特の距離感で接するなど、今でいうアスペルガー症候群の特徴をわかりやすく持っていました。
興味深いことは、ハンス・アスペルガー自身も幼少時代はアスペルガー的な行動を多くとっていたということです。
【一方的に話す人は自閉症の一種「発達障害」、あるいは「愛着障害」である可能性を記した記事はコチラ】
1944年に発表されたハンス・アスペルガーの論文
1944年に発表されたハンス・アスペルガーの「自閉症的精神病質」に関する論文は、その後、精神の世界に少なくない影響を与えました。
まず1981年にローナ・ウイングという精神科医が、ドイツ語で書かれていたハンス・アスペルガーの論文を英語圏へと紹介します。
ローナ・ウイングの娘は、アスペルガー症候群に該当する特徴を有していました。
英語圏へ紹介する際に、ローナ・ウイングは「自閉症的精神病質」を「アスペルガー症候群」と言い換えました。
ウタ・フリスによって有名になったアスペルガー症候群
自閉症研究の世界的権威であるウタ・フリスが、1991年にある本を出版。
「自閉症とアスペルガー症候群(Autism and Asperger Syndrome)」で、ハンス・アスペルガーから始まった自閉症研究の流れを総括したのです。
1994年には、世界的な精神疾患と統計マニュアルであるDSM-4でアスペルガー症候群が正式に採用されました。
現在はASD(自閉症スペクトラム障害)と呼ばれるアスペルガー症候群
2013年にDSMが更新され5版になったのですが、その際にアスペルガー症候群の名前が消え「自閉症スペクトラム障害」となりました。
2019年4月現在では、Autism Spectrum Disorder(自閉症スペクトラム障害)を略して、ASDと精神医学会で呼ばれています。
なおDisorderは障害という意味ですが、自閉症スペクトラム障害の人は、心や体に障害を持っているわけではありません。
社会生活を送るうえで障壁があるという捉え方が正解です。
世界的に有名な精神科医・心理学者10.エレイン・N・アーロン
過度に繊細で傷つきやすい人をHSP(Highly Sensitive Person)と定義したのは、女性精神科医のエレイン・N・アーロン博士です。
彼女が書いた「ささいなことでもすぐに『動揺』してしまうあなたへ。」は、センセーショナルな内容でした。
エレインNアーロン「ささいなことでもすぐに『動揺』してしまうあなたへ。」読了。#HSP (敏感な人)のエピソードが数多く掲載されていて、自分の過去と重なりやすかった。フラッシュバックされる過去の辛さと向き合い、文章によって昇華されるセラピー本。
自分の凹凸と向き合いたい人にオススメ。— しろくま (@peco0) February 28, 2018
なんと5人に1人の割合で、HSPが存在するというのです。
高度な感覚処理する感性は、カール・ユングがすでに「生得的感受性」という言葉を使って説明していましたが、エレイン・N・アーロンはさらに深掘り。
HSPの属性は、「DOES」という頭文字で覚えることができる。
処理の深さ(Depth of processing)
(他の人と比較して容易に起きる)過度な興奮(Over aroused)
感情的反応性・高度な共感性(Emotional reactivity and high empathy)
些細な刺激に対する感受性(Sensitivity to subtle stimuli)
五感が発達していることも多く、情報量を拾いやすいので消耗が激しいのです。
なお発達障害とHSPの間にはかなりの類似が見られるものの、イコールで結ぶことはできません。
混同されやすいですが、別であると考えた方がいいでしょう。
【HSPと自閉症の共通点に言及した記事はコチラ】
世界的に有名な精神科医・心理学者11.エルンスト・クレッチマー(Ernst Kretschmer
1888年生まれのエルンスト・クレッチマーはドイツの精神科医。75歳で亡くなった1964年まで様々な研究を続けていた彼ですが、最もその名を世に広めたのは『性格類型』でしょう。
エニアグラム診断という性格診断ができる『エニアグラムアソシエイツ』から、クレッチマーの三類型を引用させてもらいます。
クレッチマーの三類型
やせ型:分裂気質:物静か・非社交的 統合失調症
肥満型:循環気質:社交的・温厚 明るいが時に落ち込む 躁うつ病
闘士型:粘着気質:頑固、融通が利かない、時に爆発的に興奮 てんかん
統計学的に多くの人が持つ特徴と性格を関連づけたクレッチマーの功績は大きく、アメリカの心理学者であるウィリアム・シェルドンに多大な影響を与えました。
クレッチマーの集大成と称される『天才の心理学』では、天才が含有している狂気を深堀り。「アルプス民族には双極性障害が多いのでは?」という尖りあるテーマでの研究を続けました。
フロイトから始まり分岐!広がる精神科医、心理学者の世界
ジークモント・フロイトが精神分析の始祖であることは、疑いようのない事実。
そこからおびただしい分岐があり、様々な派閥が生まれました。
ジークモンド・フロイトの娘であるアンナ・フロイトは自我心理学を普及させました。
一方ハインツ・コフートの自己心理学は、アメリカに限り自我心理学と匹敵するほど大きな流れを作っています。
どの世界でも価値観は時代とともに変わりゆくもの。
今後も精神科医や心理学の世界は、さらなる進化を遂げていくことでしょう。
魅惑的で知的好奇心をおおいに刺激する心理学。
こちらの記事が、精神の世界をさらに知るためのきっかけになったら嬉しいです。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!
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