古典落語にしばしば登場するキャラクター与太郎。
『与太郎噺』というジャンルが確立するほど、彼は人々から愛されています。
与太郎は今でいう発達障害、ADHDではないかという説が。
発達障害について詳しく説明してもどうせ誰も聞いてくれないのなら、一言で説明できる言葉を探して出てきたのが
『与太郎』だった。ちょっとこれは嫌だ。#発達障害— ベリー@アラ環 (@qouJ2HaAbCb9s4C) December 4, 2018
実態はどうなのか解説していきましょう。
またドラえもんの主役であるのび太と与太郎の類似性についても語ります。
与太郎ってどんなキャラクター?
例外なくぼんやりした人物として描かれる。性格は呑気で楽天的。何をやっても失敗ばかりするため、心配した周囲の人間から助言をされることが多い。こうしたキャラクターから、与太郎の登場する噺は爆笑ものが多く、与太郎噺と分類される場合もある。さらに「愚か者」の代名詞となっており、楽屋の符丁としてこのような人物を表す際にも用いられている
人が良いけど、よく失敗をするおっちょこちょいなのが与太郎。
そそっかしいため、周囲からいつも心配されています。
気にかけられるということは、愛されている証明でもありますね。
与太郎は上方落語ではなく、江戸落語の中によく出てきます。
与太郎噺って何?
ざっとタイトルだけ挙げてみましょう。
『道具屋』『牛ほめ』『寄合酒』『金明竹』『石返し』『孝行糖』『大工調べ』『かぼちゃ屋』『つづら泥』『ろくろ首』『長屋の花見』『佃祭』『芋俵』『酢豆腐』『厄払い』
などが与太郎噺に分類(まだ他にもあります)。
有名な演目もあれば、少々マニアックなものもラインナップされていますね。
与太郎噺『金明竹』はどんなストーリー
与太郎噺の例として、わかりやすい『金明竹』のストーリーを紹介します。
骨董屋を経営しているおじ(以下、店主)のもとに世話になっている少年(松公あるいは与太郎。以下「小僧」)が店番をしていると、急に雨が降ってきて、ひとりの男が「雨宿りのために、軒(のき)を貸してくれ」と言って店に入ってくる。
与太郎が骨董屋の店番をしていると、「雨宿りさせてくれ」とひとりの男が訪ねてきます。
「軒先にいさせてくれ」という意味だが、小僧は言葉通りに受け取って「軒を持って行かれる」と勘違いしたため、おじが最近買ったばかりの高級な蛇の目傘を与え、「返してくれなくてもいい」と言って送り出した。このことを聞いた店主が「こういうときは『うちにあった貸し傘は、長じけ(=悪天候が続いたことによる酷使)でバラバラになりまして、使い物になりません。焚きつけにでもしよう、と思って、束ねて物置に放り込んであります』と言って断るんだ」と言って小僧を叱る。
与太郎のまずい対応に店主は、具体的な断り方を丁寧に説明します。
その直後、向かいの家の住人が「うちの押し入れでネズミが暴れて困るので、お宅のネコをお借りしたい」と言ってきた。小僧は「うちの貸しネコは、こないだからの長じけでバラバランなっちゃって。焚きつけにしようと思って、物置に放り込んであるン……」
間の悪いことに、今度は向かいの家の店主が猫を借りにきますが、与太郎はとんでもない対応を(笑)
店主は再び小僧を叱る。「ネコらしい断り方、ってェのがあるんだよ。『うちにもネコが1匹おりますが、この間からすっかりさかりがつきまして、とんと(=まったく)うちへ寄りつきません。久しぶりで帰ってきたと思ったら、どこかでエビのしっぽでも食べたんでしょう、すっかりお腹を下しておりまして、マタタビをなめさして奥へ寝かせてあります』これがネコの断りようじゃねェか」
今度は与太郎に猫を借りにきた客人への具体案を伝える店主。
イライラしながらも、与太郎にきちんと対応しているところに優しさを感じます。
その後、隣町にある出入り業者・相模屋からの使いがやって来て、「目利きを手伝ってもらいたいので、旦那さまの顔をお借りしたい」と言う。小僧は「うちにも旦那が1匹おりますが、この間からすっかりさかりがつきまして、とんとうちへ寄りつきません。久しぶりで帰ってきたと思ったら、どこかでエビのしっぽでも食べたんでしょう、すっかりお腹を下しておりまして、マタタビをなめさして奥へ寝かせてあります」
「旦那にさかりがついた」という素っ頓狂な答えをする与太郎。
言われたことをそのまま違う状況に当てはめて、失敗を繰り返す様はお笑い用語でいう天丼の手法に該当します。
【お笑い用語天丼についての解説はコチラ】
与太郎が発達障害といわれる理由
発達障害の人達は、臨機応変な対応が苦手。
ルーティーンを好み、変化を嫌います。
「◯◯は△△である」と決定したら、それをどんなシチュエーションにでも当てはめようとします。
与太郎は瞬時の微調整ができません。つまりアドリブがきかないのです。
笑いはズレから生じることがほとんど。与太郎の行動はまさにズレズレ。
与太郎本人は一生懸命なのですが、いつも失敗している印象があります。
色々なことに巻き込まれる与太郎by『孝行糖』
発達障害やアスペルガーの人は、マイペースと称されやすいです。
誰かからの指示を受けなければ行動できないというのが、その理由のひとつ。
与太郎噺は他者からの提案を受け入れて、巻き込まれていくというパターンが多め。
例えば『孝行糖』では、与太郎の親孝行が奉行所に評価されお金をもらうところから話がスタート。
与太郎自身は商売人ではなく、積極性を持たないキャラ。しかし周囲の人が、「せっかく頂戴したお金なんだから、これを元手に商売を始めたらどうか?」と助言をします。
「親孝行でもらったお金だから」というわけで、孝行糖という名前のつけられた飴を売ることになる与太郎。
キャッチコピーは「食べさせると子供がたちまち親孝行に」です。
真面目な与太郎は、毎日、孝行糖を売り歩き、バカ売れするというお話。
ここまではつまづきがないものの、オチのところで大きな失敗をしてしまう与太郎。
どんなオチなのかは、本編を確認してもらうとして、『孝行糖』でも与太郎は周囲に巻き込まれて動いているように映ります。
こういった主体性のなさも「どう動いていいのかわからない」という発達障害者の特性と見ることができるでしょう。
ADHDの特性を持つ与太郎系キャラも
与太郎は登場する演目によって、家族関係や職業などが異なります。
受け身なキャラもいれば、山っ気があって活発なキャラも。
『子ほめ』という落語に出てくる八五郎は、お酒が大好き。与太郎よりもやや活発ですが、行動は与太郎そのもの。
親しくしている隠居から「丁寧な言葉を使いなさい。相手を上手くおだてればお酒をおごってもらえるぞ」と助言されます。
理解していないのに理解したと錯覚し、いてもたってもいられない八五郎はADHD的。
「お酒をおごってもらえる魔法の手法を習得した」と思うと、もう行動せずにはいられないのです。
意気揚々と街へ繰り出すものの、そこから失敗の連続。
あまりの滑稽さに笑いが起こるという仕組み。
「酒を飲みたい」といった欲にかられて動き出し、失敗する浅はかさは、ぼうっとした感じが強い与太郎とは少し異なりますね。
ちなみに落語は、与太郎的なキャラが正解例を教えられたのにもかかわらず、見事な失敗をするという流れがとても多いです。
誰かから教わった内容を、その通りに真似しようとしてしくじってしまう、その中に滑稽を感じさせるという演出手法を「鸚鵡」と呼ぶ。この手法を取り入れた落語には「子ほめ」「時そば」「青菜」などがある。
出典:噺の話 牛ほめ
『鸚鵡(おうむ)』と呼ばれる手法です。
与太郎が出てくる演目で、鸚鵡が頻繁に確認できます。
のび太と与太郎の共通点
「のび太は、ADHDの一種ではないか?」という説が根強く唱えられています。
ADHDの子どもというと、授業中に座っていられずに教室内をうろつくイメージを持つ人も多いかもしれない。でも、ADHDには授業中に歩き回るような衝動的な言動を抑えられない「ジャイアン型」と、不注意が多くのんびりしている「のび太型」に分けられ、三浦さんはのび太型だと言う。
ジャイアンのように衝動性が高いタイプがADHDといわれるのは納得。
しかし、のび太のようにのんびりとした性格の人がADHDの可能性も。つまりADHDはかなり広範囲に及ぶのです。
小さい頃から親や親戚に「置物のような子」と言われていたほどおとなしい子だった。勉強が得意で成績は良いものの、宿題は忘れるし授業中の居眠りも多い。
引用した記事に登場している三浦さんは、のび太と違い勉強が得意です。
しかし忘れものや居眠りなど不注意が多い女性。
「後で調べてわかったことなのですが、ADHDの人は睡眠障害のナルコレプシーと型が似ていて、眠ることにも集中できないので、眠りが浅いらしいんです。だから、昼間に眠くなって授業中に寝てしまい、傍目に見ると真面目に授業を受けてないように見えるんです」(三浦さん)
ナルコレプシーという言葉になじみがない人もいるでしょう。
ナルコレプシー (narcolepsy) あるいは日本語で居眠り病(いねむりびょう)とは、日中において場所や状況を選ばず起こる強い眠気の発作を主な症状とする睡眠障害である。
のび太がよく寝ている原因は、ADHDなのかも…?
1. 不注意優勢型
俗に「のび太型」という。先生の話や人の話が聞けない、注意力が散漫、いつもボーっとしている、忘れ物が多い、整理整頓ができない、時間を守れない、遅刻を繰り返す、約束をすっぽかす、など。まさに『ドラえもん』ののび太のような特性を持つ。出典:【職場にカミングアウト】ADHDなど発達障害の方々ー!カミングアウトは全然怖くないですよー!!寧ろしましょう!(1)
のび太と与太郎の共通点は、不注意で人の話をしっかり聞けないというところ。
当人は聞いているつもりでも、理解できているとはいいがたいのです。
発達障害やADHD、アスペルガーという概念を知らない人は、のび太や与太郎を単なる怠け者と見なします。
しかし要因は脳の偏りによるもの。
本人は真面目に生きているだけなのに、周囲の人は
どうして、きちんとできないのかしら…?
と責めてしまうことも少なくありません。
古典落語が大好きな藤子F不二雄が生み出したのび太は与太郎がモデル?
藤子F不二雄先生といえば、古典落語をこよなく愛したことで有名。
ジャイアンリサイタルなんか、『寝床』という落語そのものですし、『胴切り』『長短』といった演目を、そのままドラえもん作品に組み込んだりもしています。
意図的か無意識かはわからないものの、与太郎とのび太にはかなりの類似が見られます。
『ドラえもん』ののび太がダメなやつじゃないか、という批判は昔から定期的に出てくるんですけど、あれは落語でいう「与太郎」だと思う。あるいは昔話の主人公もそうなんだけど、「弱い者が魔法的力を手に入れるのだけど欲望に負けてルールを破り、罰を受けて元に戻る」という定型を踏んでるんですよね
— cdb (@C4Dbeginner) August 16, 2018
ちなみに上記の「弱い者が魔法的力を手に入れるのだけど、欲望に負けてルールを破り、罰を受けて元に戻る」というパターンは、こち亀の両津勘吉にも当てはまります(両さんは弱者キャラではないですが、それ以外はほぼ該当)。
多動だったり、衝動的だったり、不注意だったり、過集中だったりという発達障害的特性は、物語のキャラクターに欠かせないことがわかりますね。
最も古いその類型的なキャラクターこそが、我らの愛する与太郎だったというわけです。
与太郎はこれからもたくさんの人に笑いを提供し、ファンを獲得していくことでしょう。
最後まで読んでいただいて、ありがとうございました!
【のび太、ジャイアン、両さん、サザエさんと発達障害の関係について解説した記事はコチラ】
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