あなたは、こんな社長に出会ったことがないだろうか。
部下を威圧し、常に賞賛されていなければ気が済まない。過剰に自分を語り、反論する者は徹底的に排除する。そして、不自然なまでに取り巻きに囲まれている──。
これは大企業ではなく、従業員数十名ほどの中小企業でよく見られる光景だ。
まるでカルト教団の教祖のように振る舞う社長。その背後には、ある“心の偏り”が潜んでいる可能性が高い。
自己愛性パーソナリティ障害(Narcissistic Personality Disorder:以下NPD)とは、誇大な自己評価と、賞賛への過剰な欲求、共感の欠如を特徴とする人格の傾向を指す。彼らは自らを特別な存在と信じて疑わず、自分の過ちを認めることができない。
このNPD傾向を持つ人物が経営者になると、企業は徐々に歪んだ組織になっていく。
「社員は俺に感謝すべきだ」
「俺がこの会社を回している」
「ついてこられない奴は甘えだ」
こうした発言の裏には、脆弱な自己肯定感と、過去に傷ついた“自我”を必死に守ろうとする構えがある。実は彼らは、「見下されること」「無視されること」に対して、驚くほど敏感なのだ。
大企業では、経営者といえども株主や取締役などの監視の目があり、個人のわがままは通りにくい。しかし中小企業──とくにオーナー経営型の会社では、社長が圧倒的な権力を持つ。
そこでは、誰も彼に逆らうことができない。権力構造の中で、イエスマンだけが残り、批判的な人は去っていく。やがて企業の文化は「社長の機嫌をうかがう」ことが最優先になっていく。
その結果、会社全体が「自己愛的支配」の温床になる。
では、なぜそんな人物のまわりに人が集まるのか?
答えは単純である。
彼らのもとに集う人々もまた、自己肯定感が低く、自分の軸を持てない人が多いのだ。
・強い言葉で引っ張ってくれる人に依存してしまう ・「この人に見捨てられたら生きていけない」と思ってしまう ・怒られるのが怖くて、考えるより従ってしまう |
こうした心理状態にあるとき、人は支配者の言葉を「絶対的な正義」と錯覚する。
とくに、キャリア初期の若者や、社会的孤立感を抱えた人、承認欲求が満たされない人ほど、NPD的な社長に取り込まれやすい。
気がつけば、反論も疑問も飲み込み、「従うことで守られる」と信じ込むようになる。
NPDの社長は、支配下の人間に次のような扱いをする。
・業務時間を過剰にコントロールする(休日出勤・サービス残業の強要) ・私生活への干渉(交友関係や結婚、家庭への否定) ・褒める/貶すを繰り返して、情緒的に支配する |
それは“洗脳”と呼んでも差し支えないレベルの操作だ。
こうした環境に長くいると、人は次第に「ここしか居場所がない」と思い込み、逃げる選択肢すら見えなくなっていく。
では、どうすればこうした支配から自分を守れるのか?
答えはシンプルだ。
最初から近寄らないこと。
NPD傾向のある人物は、最初はとても魅力的に見える。カリスマ的、頼もしい、堂々としている──。でもその奥には「批判されることへの極端な恐れ」と「自分を守るための攻撃性」が隠れている。
以下のような人物には注意した方がいい。
・自分の話ばかりして、人の話を聞かない ・肩書や過去の実績ばかりを誇示する ・反論を許さず、批判すると過剰に怒る ・自分の周囲をイエスマンで固めている ・謝らない、感謝しない、被害者意識が強い |
もし職場の上司や経営者にこのような傾向があるなら、なるべく距離を取ることをおすすめする。
支配関係において、「逃げる」は決して負けではない。
「見捨てられるかも」「裏切ることになるかも」と罪悪感を持つ必要もない。
自己愛の強い人に取り込まれてしまった経験がある人ほど、自分の感情を後回しにしてしまいがちだ。
でも、あなたの人生は、あなたのためにある。
自分で考え、自分で選び、自分の足で歩いていい。
そう気づいたとき、あなたはきっと、「支配ではなく対等な関係」に心地よさを感じられるようになるだろう。
そして、自分の内なる声に耳を澄ませられるようになったとき、本当の意味で自由になれるのかもしれない。
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